ご予約専用フリーダイヤル
0120-556-240

菅野所長のエッセイ:本当の危機とは

 えー、2週連続でこのコラムをお休みしました。というのも、どちらも木曜から出かけてしまったからです。

 まあ、暑い中、先々週は学会で博多、先週は研修で大阪と、やはり疲れる。移動時間が長いのがつらい。近年、腰はさほど悪くないが、なんか身体全体がこわばるというか。で、前回のエッセイはと調べると、8月26日で恩師の本が出た頃だった。

 その後もちろん読破したが、章が進むにつれて一般の人にはちょっときついかなと感じる。僕が編集担当だったら、もっとわかりやすくできるのになあと思った。本人はわかりやすく書いているつもりではあるのだろう。でも、そこは生粋の研究者、一般向けに書いたことのない悲しさである。別に自慢することではないが、こういう点にかんしては僕に長があるな。

 その昔、「こころの日曜日」を編集した頃、集まったほとんどすべての原稿をリライトしなければならなかった。みな一般向けに書くコツというかテクニックを持ち合わせていないからである。ああ、これではカウンセリングが世の中に浸透するなんてとても無理だったんだなあと嘆息せざるを得なかった。

 自分にとっては当たり前のことでも、それを何も知らない人に伝えるのは難しい。僕にしてもあらゆるところで「何でこんな簡単なことがわからないんだろう?」と嘆き、怒りを覚えたことさえあったけれども、それは八つ当たりみたいなものである。
 なぜなら、「簡単なこと」ならば、簡単に納得させられるはずなのである。それができないのは相手の問題ではなくて、自分の実力の問題である。どのように伝えれば納得してもらうことができるのか、そういう考えが足りなかった。一般向けの本をたくさん出して、そこそこ売れるようになって多少そこはわかってきた。

「簡単なこと」を伝えるのはじつは簡単ではない。相手にそれなりの予備知識や好意があれば別だが、そんな有利な状況は狭い範囲のことである。社会や世の中を相手にするというのは完全アウェーのようなものだ。
 20年近く大学にいて、自己評価として、カウンセリングの価値を定着させることはあまりできなかった。TCCを始めては、またゼロから始めなければならなかった。それから15年、現在でも「なんでそれがわからんかなあ」と思うことは多々あるが、あの頃よりはだいぶマシになっている感じはする。ま、何事も難しいから面白いわけで。

 そういう僕の考え、理念、TCCの意味について学会シンポジウムでは発表したのだった。その中で「こういう事業をやっていくプロセスとして、危機というのはどういうものか?」という質問があった。この約15年を振り返ればいろんな「危機」があったなあ。やはりそれは経営状況にかかわることが多かった。と思いつつ、意外にもこういう言葉が口をついた。
「危機というのは、結局、信念や理念がゆらぐときですね」
うーん、ちょっとかっこいいこと言い過ぎたかなと思ったが、正直でまっすぐ、純度の高い言葉だった。この一言を言わせてもらえてよかった。僕に声をかけてくださった九大の方々に感謝である。
 

最初に戻る