傾聴技法 その1:相手の感情を理解する
傾聴技法
このコーナーでは、管理職の方が部下から相談を受けたり、ご家族やご友人と話し合ったりする際に有効な、傾聴技法を中心にした知識や実践上のポイントをご紹介します。
相手の感情を理解すること、そして感情を理解していることをフィードバックする方法
人間の感情にはさまざまなものがあります。喜び、悲しみ、怒り、落ち込み、不安、安心・・・。すべての感情は本来人間にとっての何らかのシグナルです。どんな人にも大切なことは、それぞれの感情が「いい感情」、「悪い感情」というようなものではなく、すべて必要なものであり、「感情をどのようにコントロールし表現していくか」ということです。
そして、私たちが相談を受けている時に、相手の感情を理解して、適切にフィードバックしていくことは、相手との信頼関係を築き、問題解決のための共同作業を進めていく第一歩です。
管理職の方が部下の相談を受けているという参考事例を示します。
下線部が感情を理解することができると思われる箇所です。
管理職のMさんは、数日前に「体調が悪いので・・・」と連絡が入り、欠勤が続いていた部下、Nさんと話をすることになりました。Nさんは、顔色も優れず、伏目がちで、落ち着かない様子です。
Nさん:「すみません・・・」Nさんの声は震えています。
Mさん:「心配してたよ。どうしたの?」Mさんは、微笑みながら、穏やかに質問してみました。
Nさん:「実は、ここのところ夜になると全然眠れないんです」小さな声でNさんはやっと応えました。
Mさん:「ああ、そうだったんだ。それはつらかったね」
Nさんは、Mさんの言葉にホッとした表情で、話を続けました。
Nさん:「朝方まで眠れないのに、起きなければいけないころになると、いつの間にか眠ってしまい、寝過ごしてしまいまして・・・」
Mさん:「そうか。それで、この間の電話も昼過ぎだったんだね。あなたもあのときは、焦ったでしょう」
Nさん:「はい。本当にすみませんでした」 (以下、省略)
感情を理解するプロセスにおいて、重要と思われるポイントを挙げます。
①相手の話を聴きながら、言語的・非言語的に表現されている事柄に注目する。
表現される事柄は、相手が使う言葉(ex.つらい、腹を立てている、うれしい、悲しいetc.)のレベルだけではなく、態度や表情などの非言語レベル(ex.早口、尊大な態度、視線が合わない、身体が震えているetc.)にも渡っています。言語・非言語、両方の表現に注目します。
②それらの事柄は、相手の感情やものの見方・考え方、行為、態度であり、感情とそれ以外の部分を分ける。
例えば、“「恥ずかしい」という感情と、「恥ずかしいので、取引先に電話をすることが出来なかった」という行為は別々の事柄である”、と落着いて受け止めることが肝心です。自分自身にゆとりがないと、感情と行為を混同してしまい、修正すべきは行為であっても、「相手の言動をすぐに改めないといけない」と思って説得をしようとして、かえって本人の反発を招いてしまうこともあるかもしれません。
③受け取った感情について、善悪の判断などを棚上げする。感情を批判・非難しない。
相手の言動から、修正すべき事柄があったとしても、上に述べたように、“感情に善悪はない”という前提に立ち、どういった感情が表現されていても、まずはそれらをそのまま受け止めることが大切です。そして、私たちが感情を受け止めているということを、相手に対して言語的・非言語的のレベルでフィードバックしていきます。
よろしければ、日常生活のなかでこれらのポイントを確かめていただけましたら、幸いです。